アジアに存在感、中国もすがる華人の巨大パワー
「必ず習近平国家主席は夢を実現します。そこにあるのは歴史的なチャンスです」。6月14日、タイ最大手バンコク銀行の本店ビル。中国の管木駐タイ大使が熱く語ったのは「中華民族の復興」という一大構想だ。詰めかけた約500人の「華人経営者」らも、大使の話に「商売の種」を嗅ぎ取った。
「大中華経済圏」。中国の野望であるこの構想は、華人抜きには語れない。国内の発展にも力を借りようとしている。
■成都で「華商大会」
四川省成都市。内陸部の大型経済開発事業「西部大開発」の拠点であるこの街で進むのは、世界の華人経営者ら約3000人を迎え入れる準備だ。2年に1度の華人企業家らの祭典「世界華商大会」が9月下旬、12年ぶりに中国本土に戻ってくる。
大会には共産党の最高幹部が出席し、西部大開発への協力を訴える見通し。華商大会が始まったのは1991年。当初は「世界に散らばる華人の人脈作りの場」だったが、「中国と華人経済の懸け橋」に姿を変えている。
蜜月関係を深める中国政府と華人企業。原動力となっているのはお互いをテコに一段の成長を引き出そうとするしたたかさだ。その実態はすさまじい。
「天の声か」。タイ最大の華人財閥、チャロン・ポカパン(CP)グループによる中国平安保険の一部株式取得が話題をさらったのは2月。中国大手銀が取得資金の融資を渋っているとして地元紙が破談と報じたが、当局はゴーサインを出した。グループ総帥、タニン・チャラワノン氏(中国名・謝国民)は党最高幹部7人の中で「習主席を含む6人と親しい仲」(楊小平CPグループ中国副総裁)。認可はタニン氏が「奥の院」に通じる特別な存在であることを印象づけた。
中国政府が自国企業に積極的に海外に出るように促す「走出去」政策。華人企業はその水先案内役も担っている。
「国内の成功体験を海外にも広げる」──。中国の巨大インターネット企業、テンセントがインドネシア攻略で手を組んだのは、新聞やテレビ、ネットを傘下に置く同国の新興華人企業、グローバルメディアコムだ。「中華連合」でスマートフォン用の無料チャットアプリを東南アジア最大の消費市場で広め、日本のLINEに対抗する。
■4000万の海外人脈
「世界の経済の重心が史上例をみない速度でアジアに移っている」。マッキンゼー・グローバル・インスティチュートが報告書を出したのは12年6月。その躍進するアジアを転がしているのは華人企業だ。各国の株式市場における絶大な存在感からも、影響力は垣間見られる。
だが、ここまでの道のりは平たんではなかった。97年のアジア通貨危機ではグループ解体の憂き目にあった。それだけに危機をかいくぐった華人企業は市場の猛威を耐えしのぐ体力としたたかさを身につけた。もうけ話があれば、貪欲にむさぼる。
「ネットワークは中国だけではない。グローバルだ」。インドネシアの華人財閥サリムグループ傘下の食品大手インドフードの幹部が語る。海外に散らばる華人は約4000万人。これらの人脈も活用し、同社はアフリカで即席麺を売り、ブラジルでは6月に製糖会社を買収した。
中国もすがる華人企業。その動静に目をこらせば、中国や東南アジアの激動も見えてくる。