鴻海精密工業が得意の買収で液晶パネル事業の拡大に乗り出す。日立製作所の子会社である日立ディスプレイズ(千葉県茂原市、日立DP)が実施する第三者割当増資を引き受ける形で、1,000億円を出資し経営権を握る計画。中小型パネルの生産能力強化と同時に、日立DPが持つIPS技術取得により、米アップル向けの生産体制を垂直統合することが狙いとみられる。
各紙によると、日立DPは来年と再来年の2回に分けて500億円ずつ増資を実施する。終了した時点で鴻海は過半を取得する。
日立DPは増資で調達した資金で、茂原市にある既存工場の敷地内に新工場を建設し、鴻海が生産するスマートフォン向けに供給する。2012年の稼働を見込む。
日立DPの中小型パネルのシェアは昨年時点で5.9%と世界5位。鴻海グループの奇美電子(チーメイ・イノラックス)と合わせると17.3%となり、シャープを抜いて世界トップの企業連合が誕生する。
この報道に対し日立は27日、「当社として決定、公表したものではない」との声明を発表。協議は最終調整に入っているとの報道もあるが、広報担当者はNNAの取材に対し「そういう段階にはない」と否定した。
韓国や台湾の液晶パネルメーカー台頭で、日立DPは近年業績不振が続いていた。事業環境の変化に伴い、日立は液晶事業の経営権譲渡を決断し、07年12月には主要顧客のキヤノンが株式24.9%を取得した。しかし世界金融危機による需要減退が業績悪化に拍車をかけ、キヤノンも追加出資を取りやめ、同社に代わる譲渡先を探していた。
こうした中、日立DPは今年7月に鴻海グループの奇美に高輝度で広視野角が特長のIPS液晶パネルの技術を供与し、生産を委託すると発表。子会社間の業務提携を通じて、将来的な経営権譲渡に向けた話し合いも続けてきたとみられる。
■IPSパネルの特許獲得
一方の鴻海はアップルからの受注拡大を受けて、生産体制の垂直統合を急いでいた。
液晶パネル業界に詳しい台湾電子設備協会(TEEIA)の王信陽総幹事によると、アップルは「iPad」(アイパッド)や「iPhone」(アイフォーン)にIPSパネルを採用している。しかし同パネルを量産しているのは日立DPとLGディスプレーのみ。鴻海は組み立てを担っているものの、川上の部品は奇美製ではなく、外部調達を続けていた。
IPSパネルの特許保有数が最多の日立DPから技術を取得すると同時に、中小型パネルの生産能力増強も期待される。奇美の世界シェアは約20%で、来年の出荷量は5億枚に達する見通し。両社との提携が実現すれば、出荷量はさらに増えると予測される。